交通事故を起こすと損害賠償責任が発生します。損害賠償責任は、交渉によって変動する要素は意外にも少なく、定型・定額式で損害状況によって算出されます。

定型・定額式にする事によって、被害者が法外に安い賠償額の算定を受けるリスクを抑制し、スピーディーでスムーズに賠償額を請求できるようになります。

それでは、損害賠償の額はどうやって決まっているのでしょうか?
ここでは損害額算定の基礎知識について解説いたします。

損害額算定の基礎知識

損害額の算定は次の3つのカテゴリーに分けて算定を行います。

種類 概要
積極損害 被害者が事故によって支出を余儀なくされた部分
消極損害 交通事故がなければ被害者が得たであろう利益
慰謝料 被害者の精神的苦痛による賠償

被害者にも過失があると、過失相殺が行われる

交通事故は、被害者側にも事故の原因を作った過失がある場合もあります。特に車同士の事故は、特定の無過失事故を除いて双方の車に過失が発生します。

損害賠償は、被害者側の過失を減額して支払われます。たとえば、過失割合が加害者側から見て8対2の事故で、損害賠償の算定が100万円だった場合、過失割合に応じて8割の80万円を支払うことになります。
(参考:過失相殺とは、過失相殺の例)

損害賠償の対象一覧

損害賠償の対象は、次の3つの事故によって異なります。

  • 人身事故(死亡)
  • 人身事故(傷害)
  • 物損事故

それぞれ、損害賠償の対象になるものを紹介します。

人身事故(死亡)の損害賠償
財産的損害 精神的損害
積極損害 消極損害
葬儀関係費 逸失利益※ 慰謝料
医療費
通院交通費
雑費など
人身事故(傷害)の損害賠償
財産的損害 精神的損害
積極損害 消極損害
医療費 休業損害 慰謝料
通院交通費 (後遺症が残った場合、逸失利益※)
雑費など

※逸失利益とは、生命侵害を受けなければ生存したであろうと推定される年齢に達するまでの、その人の推定収入から、その間に要する生活費を控除したもの
専業主婦の場合は、女性の雇用労働者の平均的賃金相当額をあげるものと推定される。

物損事故の損害賠償
財産的損害 精神的損害
車両の破損 車両以外の損害
修理費 修理費 なし
代車費 店舗や商品の営業補填など (物損事故では賠償が認められない)
営業補填など

損害額算定の3つの算定基準

損害額の算定は定型・定額式が採用されてます。
定型・定額式とは、「この損害の場合は賠償額や慰謝料は○○万円」と、算定基準が過去の判例や規則によって作られた一覧表より、決められた金額で計算されます。

定型・定額式の算定基準は次の3つのものがあります。

  • 自賠責保険基準
  • 任意保険基準
  • 弁護士会基準

同じ状況や損害の事故でも算定方法をどの基準が適用されるかで賠償額も変わってきます。
具体的な算定額については、それぞれの事故事例の算定額を紹介したページを用意しています。
(参考: 損害賠償の具体的な算定例

自賠責保険基準とは

人身事故があった場合は、自賠責保険と任意保険(対人賠償)の双方に加入があった場合でも、自賠責保険から優先して賠償金が支払われます。

自賠責保険は被害者1名につき、次のとおり賠償金の上限設定があります。

  • 死亡:3千万円
  • 後遺症:4千万円
  • 傷害:120万円

自賠責保険の補償の範囲内の損害賠償請求で、なおかつ訴訟ではなく示談や調停で合意を目指す場合は、基本的に自賠責保険基準が適用されます。

自賠責保険基準で傷害の慰謝料を計算する場合は、完治まで1日4,200円の定額です(実際に治療を受けた日数が少ないと、治療日数分×2日の計算で減額されます)。

このあと紹介する弁護士会基準よりも慰謝料の基準が安いです。

任意保険基準とは

任意保険基準とは、主に自賠責保険の賠償上限を超えて、任意保険の対人賠償から慰謝料や治療費が支払われる場合に適用されます。

本来であれば、任意保険基準は法律の下にした弁護士会基準と同等であるべきですが、損保会社各社は支払う保険金を少なくするために、自賠責保険基準を参考にして独自の基準を設けています。

具体的な基準は各保険会社ごとで異なりましが、おおよそ自賠責保険基準と弁護士会基準の中間、もしくは自賠責保険基準よりに安めで設定している事が多いです。全体的に自賠責保険基準より、任意保険基準の方が高くなります。

任意保険会社と示談交渉するときでも、弁護士会基準での算定額で請求をすると認めてもらえる場合があります。しかし、弁護士会基準の適用など任意保険基準に対しての上乗せ交渉は、加害者側の保険会社が必ず応じてくれるとは限りません。

保険会社や担当者、事故の状況(悪質性)によっては、一切示談や調停では弁護士会基準を認めず、任意保険基準に応じなければ裁判で争う姿勢を出される場合もあります。

弁護士会基準とは

弁護士会基準とは、裁判所で認定されている相場を定型化して示した基準です。慰謝料は入院日数と通院日数の期間ごとで定型化されています。たとえば、入院を伴わない1ヶ月以内の通院でも16万円〜29万円の慰謝料が基準額です。

ほかにも後遺症傷害が弁護士会基準は手厚く、自賠責保険基準と比べて慰謝料が3倍前後変わってくる場合もあります。

主に、弁護士に依頼をして訴訟で争う場合に使われる算定方法です。
訴訟を起こされると加害者側に不利な要素が多い場合は、示談交渉の段階でも、賠償金を払う保険会社が訴訟の回避のために示談で弁護士会基準での計算や通常の任意保険基準への上乗せに応じてもらえる場合があります。