物損事故の賠償請求は、人身事故とルールや請求できる賠償金の範囲が異なります。
物損についての損害賠償の内容と、加害者側(賠償者)、被害者側(請求者)それぞれの注意点をまとめました。

物損事故の賠償範囲

物損事故の賠償範囲は主に、破損させてしまった物の修理代や、物損に伴う付随費用です。
主な物損事故の賠償例を紹介します。

車同士の物損事故 被害者が車以外の物損事故
修理代・買い替え費用(事故前の車の時価) 家屋や壁の修理費用
修理による評価損に対する賠償 物品の修理・交換費
代車料 後片付け費用
休業補償(代車で対応できない場合) 休業損害
積荷の損害 警備会社費用(鍵が締まらない状況になった場合など)
雑費(レッカー代など) その他修理・交換費用(電信柱・ガードレール・倉庫など)

人身事故との違い

物損事故で注意しなければいけないのは、人身事故と違い自賠法が適用されず、民法による不法行為責任で賠償請求することです。
人身事故と物損事故の違いは次のものがあります。

賠償責任者

物損事故の賠償責任者は、運転者と使用者(主に業務中の車の雇用主)のみです。
人身事故のように、運行供用者は賠償責任を問われないので、賠償請求できる範囲が狭いです。
(参考:損害賠償の責任を負う人)

被害者側が相手に過失があった事を立証する

人身事故の場合は、加害者自ら無過失だった事を証明しなければいけません。
加害者の無過失を証明するのは不可能に近いと言われています。
(参考:加害者が免責されるとき)

物損事故は、被害者側が証拠を用意して、加害者の過失を証明しなければいけません
物損事故が起こった場合は、基本的に事故現場で、すぐに警察を呼んで現場検証しておく事が重要です。

現場検証や事故現場での証拠確保(写真や、加害者の免許証情報を確認するなど)をせず、加害者が自らの無過失を主張した場合、損害賠償請求が難航する場合があります。

自賠責保険が適用されない

物損事故は自賠責保険(強制保険)が使えません。
任意保険に加入していない場合は、賠償金の支払いから示談交渉まで、全て自ら行うか自費で弁護士など仲介者を用意する必要があります。

任意保険や共済で、対物賠償に加入しておくようにしましょう

車が全損(修理不能)の場合

被害者の車が全損する事故を起こした場合は、事故前の車の時価が賠償額になります。
つまり、同じ車種の新車の買い替え費用ではなく、車種、年式、走行距離を考慮して、同等の車の中古車相場から賠償額が算出されます。

仮に新車を納車されて間もない車でも、賠償額は新古車の価格を参考に算出されます。
全損事故の場合は、次の費用が賠償範囲になります。

  • 車両の時価額
  • 買換諸費用
  • 車検残存費用
  • 買い替える車が納車されるまでの代車費用
  • 代車で対応できない場合の休業補償

車が修理可能の場合

車が修理可能の場合は、修理費用が賠償額になります。
修理費用は無制限で補償される訳ではなく、車の時価額より修理代が高い場合は、時価額が賠償額になります。

全損事故と違い、修理ではなく代替えを選んだ場合は、修理できる車を被害者都合で代替えしたと捉えられ、買換諸費用が認められない場合があります。
ただし、修復歴が残る事故の場合は、評価損になる部分の賠償請求できる場合があります。

その他、代車費用や休業補償も、修理可能な物損事故でも賠償請求の範囲内です。

自動車以外の破損の場合

自動車以外の破損は民家や店舗、倉庫などが挙げられます。
賠償額は主に修理代や、後片付費用、休業補償などの付随費用になります。

ガードレールや電信柱を破損させてしまった場合は、修理費用ではなく、原則新品への交換費用になります。
軽く接触しただけの事故でも、賠償額が数百万円〜数千万円になる場合もあるので、任意保険で必ず対物賠償無制限の条件で加入しておきましょう

軽い衝突事故でも人身事故扱いにされる場合も

搭乗者がいる車を相手に事故を起こした場合、軽い事故で一見物損事故に見える場合でも、被害者側がムチウチなどの症状を訴えて人身事故扱いになる場合があります。

交通事故は、物損事故よりも人身事故の方が慰謝料の請求や自賠法の適用などが有利な事が多いです。また、事故後しばらく時間が経過してから、被害者に痛みが出たり、後遺症が発症するトラブルも実際に起こっています。

そのため、軽い衝突事故でも被害者は、賠償請求やその後万が一の自体を考慮して、事故当時に痛みがなくても通院したり、ムチウチ症状を訴えて人身事故扱いにする事があります。

軽い衝突事故でも人身事故扱いになれば、慰謝料など賠償額が膨らみ、示談成立(合意)までも時間を要します。
事故がその後、どのように対応してもいいように、任意保険は加害者・被害者双方の立場になる可能性を考慮して、しっかり補償を付けて加入しておきましょう