交通事故の賠償金では、死亡や後遺症が残る人身事故に限り、逸失利益が補償されます。
逸失利益とは、事故がなければ将来得られたであろう利益の事で、主に給与収入(事業所得)です。
逸失利益は、損害賠償の中の「消極利益」に分類されています。
ここでは、逸失利益の算定について、より詳しく解説します。
逸失利益の算定
逸失利益の算定は、死亡事故と後遺症が残る傷害事故で算定方法が違います。
それぞれ、次の計算式で逸失利益が算定されます。
●死亡事故
:収入(年収) × (1-生活費控除率) × 就労可能年数に対応するライプニッツ係数
●後遺障害が残る傷害事故
:事故前の年間収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
:事故前の年間収入 × 事故後の年間収入 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
労働能力喪失率は後遺症の障害認定の等級によって決まります。
死亡事故は生活費控除率が差し引かれますが、被害者がこの先も生活する後遺障害の場合は、生活費控除がないので、障害の等級によっては死亡事故よりも賠償額が大きくなります。
収入の決まり方
収入は基本的に直近の年収になります。
被害者の勤務形態によって次のように収入を算出します。
●給与所得者
:原則として事故前の現実の税込年収
●事業所得者
:原則、事故前の収入額。または事業収入額中に占める本人の寄与分
●家事従事者
:原則、賃金センサスの女子労働者の全年齢平均賃金
●幼児、学生など
:原則、男子は男性労働者の全年齢平均賃金
:年少女性は全労働者の平均賃金
:その他の女性は女性労働者の平均賃金
●無職
:原則、男子または女子の全年齢平均賃金、もしくは年齢別平均賃金
平均賃金とは
平均賃金は、主に政府(厚生労働省)統計の平均賃金を元に算出します。
平成26年度の主要な平均賃金は次のとおりです。
・全労働者:479.68万円
・男子全年齢:538.04万円
・女子全年齢:364.12万円
平均賃金は学歴や年齢別に統計が出されていて、被害者の状況によって平均賃金ではなく、個別の学歴、年齢を考慮された平均賃金で算出される場合もあります。
給与所得者や事業所得者は事故前の年収を基準に算出します。
自営業者や会社経営者は確定申告や決算を元に算出します。申告している利益よりも実際の利益の方が多い場合は帳簿をもって証明すれば認められる場合があります。
生活費の控除
生活費の控除は死亡事故に限り適用されます。
被害者が死亡した事によって、将来受け取る利益から本人が生きていれば、被害者本人のために消費したであろう利益を一定割合で控除します。
生活費の控除は次のように、被害者の性別と家族状況によって変わります。
・一家の支柱:30〜40%を収入額より控除
・女子(主婦・独身・幼児含む):30〜40%を収入額より控除
・男子(独身・幼児含む):50%を収入より控除
また、損害額の算出方法は次の3つがあります。
・自賠責保険基準
・任意保険基準
・弁護士会基準
(参考:賠償額算定の基礎知識)
それぞれ、扶養家族の有無によって、具体的に生活費の控除率が明記されています。
●自賠責保険基準の生活費控除率
:被扶養者がいる場合 35%
:被扶養者がいない場合 50%
●弁護士会基準の生活費控除率
:被扶養者が1名の場合 40%
:被扶養者が2名以上の場合 30%
:一家の支柱以外の男子 50%
:一家の支柱以外の女子 30%
●旧任意保険基準の統一基準
:被扶養者が3人以上いる場合 30%
:被扶養者が2人いる場合 35%
:被扶養者が1人いる場合 40%
:被扶養者がいない場合 50%
※現在は任意保険基準は自由化されて各保険会社が独自の基準を設けています
就労可能年数
逸失利益を求めるための就労可能年数は、67歳までの期間で計算します。
原則、67歳から事故当時の年齢を差し引いたものが就労可能年数です。
55歳以上の高齢者(主婦含む)は67歳までの年数と、平均寿命までの年数の2分1のどちらか長い方が適用されます。
厚生労働省が発表した平成27年度の日本人の平均寿命は男性80.79歳、女性87.05歳です。55歳になった時点で、男性は80歳から55歳を引いた25を2で割って端数を切り捨てた12年、女性は同様の計算で16年の就労可能年数になります。
平均寿命が延びた事で、現在は55歳以上の方は全て平均寿命までの期間を2で割った年数が就労可能年数になります。
55歳以上は女性の方が平均寿命が長いため、就労可能年数が大きくなります。
ライプニッツ関数
ライプニッツ関数とは、時間と関係する賠償金を一時金に換算する方法です。
逸失利益は将来得るであろう利益を、事故によって賠償金として先払いで精算します。先払いで精算するにあたり、中間利息の控除をするための計算式で、年5%の法定利率を複利計算するための係数です。
利息の複利計算は非常に複雑な公式があり、ライプニッツ関数を年収から生活控除を差し引いた金額に掛ける事で簡単に複利計算による中間利息の控除ができます。
以前はライプニッツ関数のほか、ホフマン方式(単式)の計算方法もありましたが、平成11年11月に東京・大阪・名古屋の地方裁判所が協議した結果、交通事故の賠償金の算定はライプニッツ係数に統一する事を決めました。
それ以降、最高裁でもライプニッツ係数を使用して逸失利益を算出する事が妥当とする判例を出しています。
ライプニッツ係数には、18歳未満用と、18歳以上用の2種類があります。
それぞれ、就労可能年数ごとにライプニッツ係数の一覧表に書かれている数値を逸失利益の計算式の中に加えます。
(参考URL:http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/syuro.pdf)
逸失利益の算出例
具体的な逸失利益の算出例を紹介します。
●被害者Oさん
年収:400万円(会社員)
年齢:40歳
性別:男性
生活費の控除:独身
事故:死亡事故
400万円(年収) × 50%(生活費控除率) × 14.643(就労可能年数27年のライプニッツ係数) = 2,928万6千円(逸失利益)
●被害者Wさん
年収:なし(学生)
年齢:17歳
性別:女性
生活費の控除:独身
事故:障害認定7級の後遺症がある傷害事故
479.68万円(全年齢の平均賃金) × 56%(後遺障害7級の労働能力喪失率) × 17.304(18歳未満学生のライプニッツ係数) = 4,648万2,143円(逸失利益)