交通事故の解決は全体の9割以上は示談で行われています。示談に合意したら示談書の作成をもって示談成立になります。
損害賠償についての取り決めは必ず口約束ではなく、書面を持って記録と証拠を残す事が大切です。示談書は公正証書にする事によって、裁判の判決と同じ効力を持ちます。
ここでは、示談書作成のための注意点を紹介しています。
示談書作成の注意点
交渉によって示談の合意に至った場合は、示談書を作成します。示談書は同じものを2部作成して、加害者と被害者がそれぞれ署名捺印して、お互いに1通ずつ保管します。
示談書は決められた書式はありませんが、加害者側、被害者側いずれかの保険会社が用意した書式を利用する事が多いです。
示談書の必須項目は次のものがあります。
- 加害者、被害者、車両保有者のそれぞれの詳細情報
- 事故の発生日時、発生場所
- 加害車両と被害車両の車種と車両番号
- 被害状況
- 示談書の作成年月日
- 示談内容と支払い方法
示談書作成時は各種条項を織り込む
示談書を一度作成すると、原則やり直しや変更はできません。しかし示談成立・示談書の作成後にも、トラブルや予期せぬ事態が起こる場合があります。
そのため、賠償額や支払い方法の取り決めだけではなく、示談後に被害者からの要望や状況の変化、加害者の違反行為があった場合の条項を入れる必要があります。
示談書作成時に必要な、主な条項の種類と内容を紹介します。
請求権放棄条項
「(被害者は)その余の請求を放棄する」等の記載がなされます。
交通事故では請求権放棄を行使する被害者はほとんどいませんが、賠償金の支払いが残り僅かになり、被害者側が早く加害者と縁を切りたいという時などに使われます。
示談書など賠償金を巡る書面では、被害者側の請求権放棄条項を入れる事が一般的になってます。
清算条項
清算条項とは、示談書に記載された賠償以外の一切の請求権が、お互いに生じないことを確認するためのものです。
示談後に、「やっぱり慰謝料が不当に安いから増額してくれ」などといった追加請求や、加害者側が後から自らの過失の少なさをアピールして、賠償金を返金要求するなどのトラブルを防止する条項です。
具体的には次の文章例が示談書に記載されます。
「当事者間には、本件示談について、本和解条項に定めるほか何ら債権債務のないことを相互に確認する」
権利留保条項
交通事故の示談後のトラブルで多いのが、被害者が後から後遺傷害を発症した場合の、追加賠償請求です。
示談は主に交通事故の被害者の全ての賠償を行います。示談成立後でも、交通事故との関連性がある後遺障害については、請求権が発生するべきものです。しかし、示談は原則やり直しができないというルールがあるため、権利留保条項を入れる事で被害者側のリスク回避を図ります。
人身事故の示談を保険会社に依頼した場合、必ず含まれる条項ですが、念のため示談書にサインする前に、権利留保条項があるか確認しておきましょう。
権利留保条項は、次の文章が記載されます。
「万一後遺症が発症した場合は、その損害につき改めて協議する」
支払確保の条項
示談で最も懸念しなければいけないのが、賠償金を予定通り支払われなかった場合の対処法です。
交通事故の賠償金は、主に保険会社が支払うので、大きな問題に発展する事は少ないですが、万一支払いが滞った時は、損害遅延金のルールなどを明確にしなければいけません。
また、加害者の保険会社からの治療費の支払いが途中でとまり、被害者がその治療費の支払いをしていない場合に発生する未払治療費を、どちらが負担するかも明確にしておくようにしましょう。
支払確保の条項には、支払期日と損害遅延金を盛り込んで次のように記載されます。
「甲が前条の支払いを怠ったときは、甲は乙に対し、第○条の全員から既払金を控除した残額及びこれに対する平成○○年○月○日から支払済みまで年○○%の割合による遅延損害金をただちに支払う」
また、支払い確保の条項では次の2つの条項も加えておくとよいでしょう。
●制裁条項
:分割による支払いを2回怠った場合など、ルールを設けて、それに違反した場合は残金を一括払いにするなど
●保証人条項
:加害者(当事者)が賠償金を支払わない場合のために保証人を付けておく
金銭の全額受領が終わるまでは、領収書の発行や受領済みの文章を入れない
示談をする前にも、一部の賠償金が加害者から被害者に支払われている場合があります。
先に受け取った賠償金は、その後確定する賠償金の総額から控除されますが、被害者は賠償金全額を受け取るまでは、領収書の発行や示談書に「受領済み」の文章を入れないように気をつけましょう。
曖昧で中途半端な証拠を残してしまうと、加害者が開き直って賠償金を払わなくなった時のトラブルリスクが増えます。
加害者が保険に加入していない場合は、資産と支払い能力を考慮して示談をすすめる
加害者が保険に加入していない場合は、自賠責保険を超える賠償金は加害者自ら支払うことになります。
(自賠責保険未加入の場合は、政府保障事業制度によって自賠責保険と同等額の給付金が支払われます)
加害者から直接賠償請求する場合は、加害者の損害賠償するための資産や経済力(収入)を考慮して、必要であれば多少の譲渡で示談成立させる事も大切です。
加害者に過失があっても、問答無用で厳しい賠償内容の示談を要求すると、訴訟に発展したり示談成立後に支払が滞ってしまうリスクが大きくなります。
状況によっては被害者側が譲歩してでも、加害者が払える現実的な示談にしておいた方が、被害者の不利益が少なくなる場合もあります。まずは、無保険車相手に事故を起こした場合は弁護士や相談機関などの専門家に相談することから始めましょう。