交通事故の過失割合の認定は、過去の判例に基づいた基準をもとに協議されます。
しかし、タクシーが絡んだ事故では、基準値通りの決着にならない場合もあります。
タクシーによる事故を2例紹介します。
タクシーの同乗中の事故の認定割合の事例
今回は運転中ではなく、タクシーに乗車して後部座席に座っているなかで起きた事故事例です。
事故状況のポイントは次のとおりです。
- 被害者はお金を払ってタクシーに乗車し目的地に向けて移動中
- 時間は深夜
- 時間帯的に道路が空いていて、運良く信号も青が続いていたのでタクシーは法定速度を10km〜20kmオーバーして走行していた
- 信号がある交差点で、タクシーが青信号を通過中に赤信号無視をした車が飛び出してきて接触事故
- タクシーの後部座席に乗っていた被害者は重症を負った
- 赤信号無視した事故の加害者は保険に未加入
今回の事故は信号のある交差点でタクシーは青信号、加害者の車は赤信号無視なので、「タクシー0」対「赤信号無視車両100」が過失割合の認定基準です。
しかし、加害者はタクシーも速度超過運転をしていて、交差点付近で法定速度まで減速すれば避けられる可能性があったとタクシー側に過失要求をしました。
また、タクシーに乗っていた被害者は、無保険車の赤信号無視車両よりも、資金力があるタクシー会社への損害賠償請求を希望しています。
最高裁の判決は100対0
今回の事故は最高裁にまで持ち込まれた結果、タクシー運転手の責任を問えないとの理由で、過失割合「100(赤信号無視の加害者)」対「0(タクシー)」の判決が出ました。
元々、赤信号対青信号は100対0の過失割合の基準があり、タクシーの速度超過がなくても事故は起こったと判断したものです。
こうした判例はありますが、双方に道路交通法違反や危険運転の要素がある判例は非常に難しく、裁判の状況や弁護士の技量によっては判例が変わった可能性があります。
また、タクシー側に1割でも過失があれば、事故の連帯責任でタクシー会社に対して全額の賠償請求をできます。
被害者は加害者から賠償請求する以外の方法は困難
人身事故は被害者救済のため、次の2つの制度が用意されています。
- 運行供用者へ対しての責任追求
- 無保険車特約や国絡む保険車両に対しての求償
運行供用者は人身事故の被害者が、賠償金を請求しやすくするために、賠償請求できる相手を広げた制度です。
(参考:運行供用者としての責任)
しかし今回の事故で、加害者は赤信号無視をした車で、タクシー側は裁判で無過失を証明しているので、タクシー会社への請求は難しいです。
もし、赤信号無視をした車が通勤中や家族や知人の車を借りていた事実など運行供用者に該当すれば、賠償金を運行供用者に対して請求できます。
加害車両が無保険だった場合は、自賠責保険の補償分に関しては国が求償する制度を持っています。
また、被害者が加入している自動車保険で無保険車特約を付けていれば、(自動付帯の保険商品が多い)相手の車両が無保険だった場合、自分が加入している自動車保険から賠償金を受け取れます。
しかし、こうした加害車両が無保険だった場合の求償で対象になるのは被害者が死亡か重度の後遺症を負った場合に限定されます。
今回の事故は、大怪我はしても後遺症の残らない傷害事故になるので国や保険会社からの求償を受けられません。
ただし、自動車保険の人身傷害で、搭乗中以外も補償する契約になっていれば、補償を受けられます。
タクシーに証拠隠滅された事故事例
ここで紹介するのは、タクシーを相手に事故を起こしたのですが、その後証拠隠滅をされて不利な過失割合を突きつけられた、当サイトスタッフの身内で起こった事故事例です。
事故状況のポイントは次の通りです。
- 事故が起こったのは深夜
- 事故の被害者は個人所有の乗用車(スポーツクーペ)を道路幅が広い優先道路を走行中
- 事故の被害車は当時19歳で法定速度を順守して安全運転で走行中
- 信号のない十字路で、道幅が狭い道路からタクシーが猛スピードで突っ込んできて衝突
信号の無い交差点で、広路車と狭路車の事故の場合、過失割合の認定基準は「3(広路車)」対「7(狭路車)」です。
また、広道車が減速、狭路車が減速をしていない場合は、2対8。さらに今回はタクシーが明らかな速度超過で交差点に侵入しているので、1対9が妥当な過失割合です。
しかし、結果的にはタクシー会社の過失割合は1割で、本来の被害者である広路車走行中の方が、9割の過失を突きつけられた事になりました。
交通事故現場のタクシーが証拠を隠滅
被害者は10代で初めて買った憧れのスポーツカー。暴走行為をする訳ではなく適度のクルージングなどを楽しむ目的で買った憧れの車です。
大事にしていた愛車が突然の事故で大破すると、その場で動揺を隠せず頭の中が真っ白になってしまったようです。
事故現場は近くのターミナル駅から車で2〜3分の住宅街の裏通り。事故発生から3〜4分後には警察よりも先にタクシーの仲間が5〜6台集まってきたそうです。
集まってきたタクシーは手際よくホウキとチリトリを出して、事故現場に飛び散った車の破片などを綺麗に掃除を始めました。
被害者は未だに冷静さを欠いた状態で、何もせず呆然と立ち尽くして、タクシー会社は道路を綺麗にするマナーがあるんだと感心すらしていたいました。
しかしこれは、掃除が目的ではなく証拠隠滅が目的。示談交渉が始まると、タクシー会社はスピードを出していたのは、スポーツカーに乗っていた若者でタクシーは被害者だと主張を始めました。
当然、「そんな訳はない。タクシーが猛スピードで突っ込んできて、車は数メートルも衝撃で動いた」と自らの主張をしますが、タクシー会社は証拠を出せの一点張り。
広路車を走っていた本来の被害者の保険会社もお手上げで、訴訟に持ち込んでも主張が通らず、余計にお金がかかるだけの可能性が高いと伝えられ、泣く泣く1対9で大半の過失責任を負う内容の示談に応じました。
証拠の確保の重要性と、タクシーや運送業者の事故のノウハウを警戒する
交通事故の過失割合は事故状況によって基準がありますが、判例による過失割合の基準を希望する場合も証拠が必要です。
一般人が事故の相手であれば、それぞれ正直に事故状況を実況見分で報告し、示談でも事実に基づいた話をする事が多いです。
しかし、タクシーをはじめ、運送業など業務で毎日車を運転している職種は事故が多く、事故が起こった時に有利な方向に進めるノウハウを持っています。
相手が大手の業者だからと安心して任せてしまう方もいますが、こうした事故が多い職種の会社は、事故の過失割合を少なくする事を最優先して、被害者の事はあまり考えていません。
事故が起こったら、すぐに写真を撮って現場の証拠を残しておく事や、タクシーの客や通行人に声をかけて、必要に応じて事故現場の証人になってもらうようにお願いしておくとよいでしょう。
また、ドライブレコーダーを装着しておくと、事故の相手と意見や供述が食い違った時の証拠になり、事故による過失割合の認定を有利に進められます。