交通事故をめぐる賠償責任の追求でトラブル事例が多く、複雑な制度になっているのが「運行供用者」として賠償責任が認められるか否かです。
運行供用者として、認められる判例が多いのが、業務使用の車の事故に対しての元請会社や親会の責任です。
実際に裁判が行われた判例の傾向と併せて紹介します。
下請会社が事故を起こした時の元請会社や親会社の責任
運送業界をはじめ、元請会社やグループ企業の子会社が、下請会社や親会社に対して業務を外注する事がよくあります。
もし、そこで現場で働く下請(子会社)の車が交通事故(人身事故)を起こしたらどうなるのでしょうか?
下請会社、子会社が事故を起こすと、元請や親会社も損害が発生し、受注元に対しての補償やクレーム処理に追われます。
一見、元請や親会社など受注元の企業も被害者と捉える事もできますが、人身事故の賠償責任では、運行供用者として責任を追求される事が多いです。
元請会社が下請会社の人身事故で賠償責任を認められる場合
元請会社と下請会社の従業員は、一般的に直接の雇用契約はありません。
しかし、次の理由によって、元請会社が運行供用者として人身事故の賠償責任を認められる事が多いです。
1.元請人に指揮・監督責任があった場合
指揮・監督責任とは、元請会社が受注者からの要望を踏まえ、下請会社に運送日時の指定や、荷物の受け渡しの指示を行っていた場合に問われる責任です。
特に下請の従業員が、元請会社のスタッフの支配下で業務をしていた場合は、元請会社の賠償責任が認められやすくなります。
2.下請人の被用者のした事が余地できた場合
たとえば、元請人が下請人の現場で働くスタッフと顔を合わせたり、連絡を取り合う機会が多く、元請人が運転に不安がありそうなスタッフである事や、寝不足で危険な状態である事を把握していた場合などです。
ほかにも、道路交通量が多く事故多発地帯(主に市街地)を通行する事を知りながら、安全性の確保より、コストを優先して高速道路代金を支給せず、一般道運送を指示した場合などがあります。
事故のリスクを理解して、リスク回避する方法がほかに考えられた場合は、元請人にも損害賠償責任が認められる可能性があります。
3.下請の被用者に対して間接的な指揮・監督責任を持っていた場合
下請の被用者が直接元請人と接点がなくても、元請から下請会社の管理職に指示を行い、その下請会社の管理職の指示や監督で被用者が事故を起こした場合です。
4.企業の一部門として包摂されるか否か
下請会社が受けていた仕事が、その企業の一部門として専従もしくは安定して業務の受注を請けていたかがポイントになります。
5.下請に対する資金援助、便宜の供与
下請会社が業務を行うにあたって、元請会社や親会社がガソリン代や交通費、その他手当などの資金援助を行っていたり、元請会社のETCカードやバーコード管理ツールなどの支給を行い、便宜を図っていた場合。
6.下請現場への監督者の派遣、作業指示の有無
下請が働く現場に元請が監督者として派遣していた場合です。作業指示をしていた場合はもちろん、監視して至らぬ点があれば仕事を切るといった圧力をかけた場合も同等に扱われます。
7.事務所・車置場等の提供
直接日常的に事務所を提供していなくても、仕事の途中で元請の事務所に立ち寄って伝票を印刷したり、業務の都合で不定期に元請会社の敷地に車を駐車した場合も責任追求の対象になります。
8.名義貸し関係
元請の名前や名義、営業権などを貸して下請や子会社が業務をしていた場合
9.事故車の運行が下請作業に従事中か又は下請作業に赴く途中か否か
下請会社は100%元請からの外注業務だけをこなしているとは限りません。
事故を起こした時に、元請の仕事への関与があったかを問われます。
原則、2つ以上の該当があれば運行供用者として賠償責任が認められる
元請会社や親会社が運行供用者として認められるには、次の1〜9の要件をすべて満たしている必要はありません。
それぞれ個別に運行供用者としての責任があるか検討されますが、概算の目安として上記1〜9のうち2つ以上該当するか、1つの要件の密接性が深い場合に賠償責任が認められる事が多いです。
元請と下請の関係にあった時点で、元請会社が運行供用者として責任が認められる可能性が高い
当サイトでは、運行供用者の賠償責任に関して複数の事例を紹介しています。
その中でも、業務上で密接な関係がある元請会社と下請会社の関係がある事例では、下請会社の人身事故に対して元請会社の運行供用者としての賠償責任が認められる可能性が高いです。
ほかの事例では、運行供用者として認められる事例がある場合でも、事故を起こした加害者に対して何かしらの落ち度がなければ、責任を免れる事も多いです。
しかし、元請の仕事をこなしていた下請会社が事故を起こした場合は、その時点で関係性が深いと判断され、元請会社の責任が免れる例外が少ないのが特徴です。