交通事故で負傷して働けなくなった場合は、失われた収入を損害賠償できます。
事故による収入面の損害賠償を「休業補償」と呼びます。
ここでは、休業補償は実際にどれくらいの金額を貰えるのか詳しく解説します。
休業損害の補償
損害賠償の算出方法は次の3つがあります。
- 自賠責保険基準
- 任意保険基準
- 弁護士会基準
(参考:慰謝料はどのように算定するか)
休業損害の補償額は、すべての賠償基準で「基礎収入額で計算した休業損害日額 × 実休業日数」で算出します。
交通事故の賠償金の算定の中では、支払い基準による差額が少ない項目です。
自賠責保険基準のみ、1日につき原則5,700円の基準価格が用意されていて、立証資料により1日の収入が5.700円を超える事が明らかな場合は、上限19,000円の範囲内でその実額を基礎収入額にできます。
基礎収入額の考え方
休業補償の算定で重要なのが基礎収入額です。基礎収入額をベースに日額の所得を算出して、休業損害日額として計算されます。基礎収入額の考え方は給与所得者とその他の方で変わります。
また、休業損害の賠償請求は、被害者側が自らの所得や基礎収入額の妥当性を証明しなければいいけません。
給与取得者の基礎収入額
サラリーマンなどの給与所得者は、事故前3ヶ月間の収入額から次の計算式で基礎収入を算出します。
直近3ヶ月間の収入額 ÷ 90日 × 休業日数 = 基礎収入額
勤務先から休業損害証明書(源泉徴収票添付)を発行してもらい、事故前3ヶ月の総収入(残業代や各種手当含)から1日あたりの休業補償分を出します。
入社直後の場合は、入社時の雇用契約書の全額。または、事故前1〜2ヶ月の平均給与で日額を出します。また、入社前でも内定書と雇用契約書がある場合は、勤務開始予定日より休業補償を請求できる場合があります。
入院や通院するために有給休暇を消費した分も休業扱いになるので請求対象です。
また、長期休業で賞与(ボーナス)に影響がある場合は、事故前6ヶ月または12ヶ月の賞与から1日あたりの平均を算出し、給与分とは別に請求可能です。賞与分の休業補償を請求する場合も、事故による休業で賞与が減額された事を示す証明書を会社に発行してもらい提出します。
勤務中の事故で労災保険からの支給があった場合は、その差額分しか請求できません。
給与所得者以外の基礎収入額
給与所得者以外は、事業所得者や家事従事者、アルバイト・パートタイマー、失業者(無職)、学生などが挙げられます。
給与所得者以外の基礎収入額は、次のいずれかで計算されます。
・前年度確定申告所得額 ÷ 365日 × 休業日数 = 基礎収入額
・賃金センサスの平均賃金額 ÷ 365日 × 休業日数 = 基礎収入額
給与所得者の事故前3ヶ月分とは違い、原則直近の年収(確定申告分)もしくは賃金センサス(年齢・性別に応じた全体の平均所得の統計)の金額をもとに、365日で割って1日あたりの基礎収入額を算出します。
事業所得者の基礎収入額
個人事業主や自由業の事業所得者は、原則、事故前年の所得税申告所得(年収)から、1日分の収入額を出します。
事業所得者の場合、税金対策で経費や減価償却などで利益を少なく申告している場合があります。この場合、帳簿や書類によって、申告額より実際の収入の方が多い事を証明すれば実質の所得で請求できます。
店舗を持っている事業主や従業員の給料が発生している場合、事故によって休業した分の固定費も請求できます。自由業など、毎年の収入額に波が大きい場合は、数年分の年収から平均を出して計算する事が認められる場合もあります。
所得の証明が困難な場合は、賃金センサスに基づいて計算します。
家事従事者の基礎収入額
専業主婦など、本人に収入がない方が被害者の場合でも、家事休業分の損害として休業補償が発生します。専業主婦であれば、女子全年齢平均賃金に基づき1日あたりの収入を算出します。
ただし、毎日認められるのではなく実治療日数×2を実休業日数として扱われる事が多いです。
自賠責保険基準の1日の基礎額5,700円よりも賃金センサスの1日分の収入額の方が大きくなるので、もし加害者の保険から5,700円で計算する事を提示された場合や、休業補償を認めない提示をされた場合は、専門機関に相談してみるとよいでしょう。
主婦で、パートタイムで働いている場合は、仕事と家事休業分を2重に請求する事はできず、賃金センサスと現実の収入のどちらか金額多い方で計算します。
アルバイト・パートタイマー
アルバイトやパートタイマーなどの非正規労働者は、1年以上同じ職場で勤務して収入の確実性が高い場合は、休業補償を請求できます。
この場合は、給与所得者と同様に事故前3ヶ月の収入に基づいて算出します。
自賠責保険基準の1日5,700円より低い場合は、一律5,700円で計算されます。
失業者・学生
アルバイトなどの収入がある場合や、既に内定をもらっていて、内定書や雇用契約書などの証明書類がある場合は、給与所得者として休業補償を請求できる場合があります。
原則として、収入がない失業者や学生の場合は休業補償を請求できません。
ただし、死亡や後遺障害によって逸失利益が発生した場合は、賃金センサスによって将来の収入が賠償されます。
(参考:逸失利益の算定)