交通事故の人身被害で非常に多いのが、むち打ち症です。
近年の乗用車は安全性能が非常に高くなって、速度超過や高速道路走行中による大規模な衝突や、シートベルトを着用しないといった落ち度がなければ、ほとんどは外傷や骨折などの重症を負いません。
実際に車同士の事故のほとんどは、車内に乗っている搭乗者の外見は無傷の事が多いです。しかし、外傷がなくても、交通事故の衝撃は非常に大きく、むち打ち症などで痛みが長期間に及び残ってしまう事があります。
むち打ち症とは
むち打ち症は正式には「外傷性頸部症候群」や「頸椎捻挫」など、首から背骨にかけての神経症状の総称です。医学的に定義するのが難しく、レントゲンにも写らないため、患者の症状を聞いたり、医師が触診によって診断します。
むち打ち症の特徴は治療が長期化することが多く、辛い症状が何年も続く事もあります。治療が長期化するので、一般の傷害事例と同様に扱うのが難しく、慰謝料の算定では、むち打ち症に限定して弁護士会基準では独自の算定表が用意されています。
後遺症としても特殊で、補償期間が不明瞭になりがちです。
むち打ち症の治療法
むち打ち症の治療法は主に次のものがあります。
- 安静にして自然治癒を待つ
- 湿布や塗薬など、外用薬の使用
- 整骨院や接骨院での治療
むち打ち症で整骨院や接骨院を治療して保険請求する場合は、医師の指示のもとで、国家資格者がいる交通事故対応の治療院を利用しなければいけません。
保険会社はむち打ち症の治療にシビア
むち打ち症は明確な診断基準がなく、実際に症状が出ていなくても、本人が「首が痛い」と訴えれば、実際にむち打ち症として診断されてしまう事もあります。
そのため、自動車事故の被害者の一部では、むち打ち症を偽って慰謝料を騙し取ろうするケースもあります。また、実際にむち打ち症だった場合でも完治の基準も不明瞭で、保険治療の打ち切りのタイミングの判断が難しいです。
こうした背景もあり、傷害症状がむち打ち症のみの場合は、保険会社から早い段階で治療打ち切りの提示をされる場合もあります。
(参考記事:交通事故の治療での保険の打ち切り)
むち打ち症は後遺症に認定されるのか?
むち打ち症は治療が長期化し、数年経過しても完治しない場合もあります。そのため、症状が重い場合や数ヶ月経過しても症状が改善されない場合は、治療費として賠償請求を継続するのではなく、後遺障害に認定してもらうと賠償請求が有利になります。
後遺障害等級表には「むち打ち症」という言葉はなく、12級(13号)や14級(9号)の神経障害・神経症状が、むち打ち症に該当された事例があります。
むち打ち症が実際に後遺傷害に認定されるケースのほとんどは14級です。また、むち打ち症を理由に後遺障害の申請をしても、非該当の判断をされ、認められないケースも多々あります。
後遺障害を認めてもらうには、医師に「後遺障害診断書」を書いてもらい自賠責保険会社に提出をします。診断書を書いてもらえるかは医師による判断の要素が大きく、審査に通るかは事故の大きさが大きく影響します。
たとえば、バンパー同士が軽く接触する追突事故の場合は、まず後遺障害に認定される事はないでしょう。
むち打ち症で後遺障害に認定されるメリット
自賠責保険の賠償額は後遺症のない傷害の賠償額は最大120万円です。しかし、後遺障害が認定されると、等級に応じて賠償額の上限が上乗せされ、さらに逸失利益の賠償請求も可能になります。
逸失利益とは、事故がならなければ得られたであろう将来の利益です。
●自賠責保険の後遺障害による補償額(むち打ち症に認定される可能性がある等級)
14級:75万円
12級:224万円
●逸失利益の労働能力喪失率と喪失期間
14級(9号) | 12級 | |
---|---|---|
労働能力喪失率 | 5% | 14% |
労働能力喪失期間 | 5年程度 | 10年程度 |
逸失利益については、後遺障害が認定されれば、等級によって年収から労働能力喪失率を掛けた金額を労働能力喪失期間に応じて請求可能です。
ただし14等級の場合など、軽いむち打ち症の場合は、後遺障害の認定がされても、実際に収入が減った事が証明できなければ逸失利益の請求が認められない場合があります。
低い等級認定や労働能力喪失期間に納得がいかなければ、不服申し立てを行い再審査してもらう事もできます。