交通事故のほとんどは、調停や訴訟まで発展させず示談交渉によって解決されています。示談交渉は主に、お互いの保険会社が代行してくれるので、スピーディーに解決へ向けて協議されていきます。
しかし、交通事故は案件ごとに難しい局面を迎える事も多く、示談交渉を巡るトラブルや被害者や加害者が注意しなければいけないポイントがあります。
示談交渉を巡るトラブル事例集
示談交渉は交渉中はもちろん、傷害によるケガの治療、加害者側のひどい対応など様々なトラブル事例があります。
ここでは、よくあるトラブルに発展するケースと、その際の注意点や解決策を紹介しています。
ケース1:示談が進まずお金に困ったら
交通事故の賠償金は、原則示談成立後に支払われます。しかし、示談が進まずに長引くと、その期間の治療費や休業損害、生活費などの出費でお金に困ってしまう場合があります。
人身事故で示談が進まずお金に困った場合は、自賠責保険の仮渡金請求や、任意保険の内払金制度を利用する事ができます。
(参考:自賠責保険は仮払いあり)
ケース2:負傷箇所を再度交通事故でケガして悪化した場合
被害者は1回目の事故で骨折をする怪我をして、1回目の事故の加害者に賠償金請求をしました。1回目の怪我が完治する前に、被害者は再度事故の被害に遭って、骨折している部位をさらに悪化させる大怪我を負いました。
この場合、被害者は1回目の事故と2回目の事故の、どちらの加害者に賠償請求できるのでしょうか?
これは、それぞれの加害者に対して賠償請求できます。
1回目の事故と2回目の事故の加害者それぞれに、被害者が負った傷害の寄与度に応じて賠償責任が発生します。この場合、1回目の事故の回復の程度がどれほどなのかで寄与度の基準が変わってきます。
請求方法は自賠責保険会社に、説得力のある資料をつけて書面で申立を行います。それでもダメな場合は裁判をする事になります。複数の事故で同じ部位に傷害や後遺障害を負った場合は、非常に難しいケースなので、弁護士や交通事故専門の第三者機関に相談するようにしましょう。
ケース3:ひき逃げや無保険車事故の場合
交通事故の被害によって死傷した際、加害者がひき逃げで不明な場合や、無保険車で賠償金を払う能力が無い場合があります。人身事故の場合は、政府や保険会社から救済制度が用意されています。
加害者の自賠責保険から賠償が払われなかった場合は、政府保障事業制度を利用する事で、自賠責保険と同等の補償を受けられます。他にも、加入している任意保険の無保険車傷害特約や、人身傷害・搭乗者傷害から保険金を請求できる場合があります。
加害者からの保険金が支払われない悪質な事故に遭った際は、専門機関に相談して適切な対処を取りましょう。
(参考:加害者が保険に入っていないケース)
ケース4:加害者が被害者の賠償金を持ち逃げした場合
保険金の請求手続きの原則は、加害者側が保険金請求をします。しかし、加害者が被害者の賠償金として受け取った保険金を持ち逃げしてしまった場合はどうなるのでしょうか?
この場合、被害者は加害者の保険会社に対して過失を訴えて賠償請求する場合は、その過失を証明しなければいけません。基本的には加害者と直接示談で払ってもらうように交渉しますが、示談で解決できない場合は裁判で争う事になります。
お金をすぐに取り戻したいのであれば民事訴訟、お金を持ち逃げした加害者に厳罰を求めるのであれば刑事訴訟になります。現在は、保険会社から被害者に対して直接保険金を支払う事が一般化されていて、こうしたトラブル事例は少なくなっています。
ケース5:事故届を出さずに加害者と直接示談交渉をして、後日後遺症が発生した
交通事故は警察に届出を出すと人身事故扱いになり、免許停止など行政的責任が発生する場合もあります。こうした罰則を回避するためや、事故の現場検証の時間を惜しんで、加害者と被害者が事故現場で直接示談交渉をして、事故届を出さずに済ませてしまう場合があります。
その後、何もなければいいのですが、万が一後遺症が出てしまったり、完治までの時間が必要以上にかかった場合、トラブルに発展します。
事故届を出していない場合、後日、後遺症や治療の長期化を訴えて、加害者の自賠責保険や双方の任意保険に保険金請求をしても、賠償補償が認められません。この場合、被害者は弁護士と相談して、加害者に追加で賠償金請求を求めるなどの方法を取るしかありません。
人身事故による怪我は、事故現場では軽傷だと感じても、その後後遺障害が残ったり、後から強い痛みが発生するなど悪化する場合があります。事故届を出さない示談交渉には応じず、必ず警察への届出など正しい手順を追って事故処理を進めるようにしましょう。
ケース6:複数の車が加害者の事故の請求先
複数の車が絡む事故で死傷した場合は、過失がある車全てに対して賠償請求できます。賠償金の支払額は加害者間の過失割合の認定で決まりますが、それは加害者の都合です。
被害者は加害者全ての自賠責保険、任意保険に対して賠償金の請求ができ、いずれか一方に対して全額の賠償請求する事もできます。
(参考:加害者が複数の場合)
ケース7:会社の車で同僚に対して人身事故を起こした場合
会社の車を従業員が運転中、誤って同僚の従業員と接触する人身事故を起こしてしまいました。会社側は、加入中の任意保険からの賠償請求ができるものだと思い込んでいますが、任意保険は保険約款でこうした同僚間の事故を、損害賠償の補填の対象から外している事が多いです。
そのため、自賠責保険の補償はおりても、任意保険から一切補償が受けられない場合があります。この場合は任意保険ではなく、労災保険によって補償できる可能性があります。
被害者が下請会社の従業員など、加害者の使用者(会社)と直接雇用関係がない場合は、任意保険が適用になります。
ケース8:失業中の事故の休業補償
人身事故で仕事ができない傷害を負った場合、その間の休業損害を賠償請求できます。もし、被害者が転職活動などの理由で失業中だった場合は、被害者が働く気がなくてブラブラしていた場合を除いて休業補償の対象になります。
ただし、最近の判例を見ると失業前の仕事の収入を基準に、何割か減額された金額で休業補償が算定される事が多いようです。また、被害者が幼児や学生(1年以上同じ職場でアルバイトしている場合を除く)、年金受給者の場合は休業補償はありません。
ケース9:示談成立後に後遺障害が出た場合
示談が成立して賠償金を被害者が受け取った後に、交通事故の後遺障害が出た場合は、賠償金請求をやり直しできる可能性があります。一度成立した示談はやり直せないのが原則ですが、事故と関連性が高い後遺障害だと認定されれば、医師の診断書などの立証をもとに後遺障害による損失を別に請求できる場合があります。
できれば、示談書を作成する際に、示談成立後の後遺障害についての権利留保条項が記載されてあると請求がスムーズです。こうした事故発生から一定期間経過した時のトラブルリスクに備えて、示談書の作成は保険会社や弁護士など専門家に作成依頼をしておくとよいでしょう。
まとめ
交通事故の示談交渉や損害賠償請求を巡るよくあるトラブル事例では、様々なイレギュラーケースがあります。それぞれ、被害者救済を原則として、何かしらの解決法がある可能性があります。
トラブルが起こったら、すぐに弁護士や保険会社、交通事故専門の第三者機関などの専門家に相談しましょう。
ただし、事故届を出していない直接の示談交渉など、被害者にも落ち度がある場合や、正しい手順で事故処理をしなかった場合は、保険請求が一切認められないケースもあります。