交通事故の損害賠償額が最も大きくなるのは後遺症が残る傷害です。
重度の後遺症が残った場合は死亡事故よりも賠償額は膨らみます。

また、死亡事故や後遺症がない傷害事故と比べて、後遺症が残る傷害事故は賠償請求できる項目が多いです。
実際に交通事故の被害で後遺症が残った方の具体例を見ながら、損害賠償の算定例を紹介します。

障害事故(後遺症なし)の賠償金の算出例

障害事故(後遺症なし)の損害賠償は次のものがあります。

  • 後遺症についての逸失利益
  • 後遺症についての慰謝料
  • 事故直後の治療についての損害賠償(治療費、休業補償、入通院についての慰謝料)

損害賠償の基礎知識については別のページで解説しています。
(参考:賠償額算定の基礎知識)

後遺症が残った人身事故は、事故直後の入通院に対しての傷害事故による損害賠償と、後遺症状が固定(確定)してからの損害賠償を合わせて請求できます。
過去に実際に起きた事故事例をモデルにして、賠償範囲と算定方法を解説します。

●今回の被害者モデル

被害者 Kさん
年齢 58歳
性別 男性
家族構成 妻(子供は自立)
扶養家族 なし
事故直前の年収 600万円
職業 会社員(正社員)
傷害の状況
入院 300日
通院 300日(実通院95日)
後遺障害 ヘルニアおよび臓器障害(障害等級9級)

治療費等

障害事故における医療費などを「積極損害」と呼びます。
積極損害の範囲や算定方法は後遺症がない傷害事故の完治までの期間と同じです。
(参考:傷害事故の算定例(後遺症なし))

被害者Kさんの治療費等の賠償額は次のとおりです。

治療費等の賠償額
治療費 210万円
入院中雑費 1,500円 × 300日 = 45万円
付添人費用 職業付添人160万円 + 近親者の付添費24万円 = 184万円
合計 439万円

休業補償

休業補償は入院や通院期間中に仕事をしていなかった場合は月収の全額。通院のために仕事を休んだ場合は、給料を日割り計算して日数分補償されます。
仕事を休んだ事によってボーナスが減額される場合も減額分が補償されます。

被害者Kさんは通院期間中も仕事を休む事が余儀なくされました。
そのため、年収600万円を12分割した50万円の11ヶ月分で算出し、550万円が休業補償の賠償金になります

労働能力喪失による逸失利益

後遺症の症状や重さによっては、仕事に復帰しても事故前と同じ収入が確保できません。
事故によって労働能力喪失があれば、その部分の逸失利益が算定されます。

死亡事故の逸失利益と違い、生活費の控除はありません。重度の後遺症で一切仕事ができなくなれば、死亡事故よりも逸失利益は大きくなります。
労働能力喪失による逸失利益の計算方法は次の通りです。

労働能力喪失による逸失利益 = 月収 × 12ヶ月 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

労働能力喪失率は傷害の認定等級によって決まります。
(参考:消極損害はどのように算定するか)
ライプニッツ係数に使う就労可能年数は、55歳以上の方に限り67歳までの期間、もしくは平均寿命から現在の年齢を引いて2で割った数字の大きい方が適用されます。

被害者Kさんは58歳で67歳から逆算して求めると9年、現在男性の平均寿命は約80歳なので、(80歳-58歳)÷2の11年になります。
被害者Kさんの労働能力喪失による逸失利益は次のようになります。

50万円(月収) × 12ヶ月 × 35%(労働能力喪失率) ×8.306(就労可能年数11年のライプニッツ係数) = 17,442,600円

労働能力喪失率は後遺障害の等級によって基準値があり9級は35%です。ただし、事故前と事故後の収入差が少ない場合は上記の金額から減額される場合があります。

慰謝料

慰謝料の算出方法には次の3つの基準があります。

  • 自賠責保険基準
  • 任意保険基準
  • 弁護士会基準

(参考:慰謝料はどのように算定するか)

被害者Kさんは最も慰謝料の基準額が大きい弁護士会基準で賠償請求を行い認められました。
また、後遺症が残った傷害の慰謝料は「入通院に対する慰謝料」と、「後遺症に対する慰謝料」の2つを合わせて請求できます。

●弁護士会基準の慰謝料基準額

・入院10ヶ月/通院10ヶ月 228万円〜418万円
・障害の慰謝料9級 600万円〜700万円

被害者Mさんは上記基準額に基づいて、次のように慰謝料が決定されました。

・入通院の慰謝料:340万円
・障害の慰謝料:650万円

合計:990万円

被害者Kさんの賠償金の合計

被害者Kさんの傷害事故(後遺症なし)による賠償金の合計は3,103万2,600円です。

Kさんの賠償金内訳
入院/通院費 210万円
入通院中の諸雑費 45万円
付添看護費 184万円
休業補償 550万円
逸失利益 1,744万2,600円
慰謝料 990万円
弁護士費用 280万円(上記合計の認容額の10%)
合計 3,103万2,600円

人身事故によって裁判をした場合は、弁護士費用は認容額の10%を目安に、加害者から損害賠償請求できます。

治療費については、判決前に自賠責保険から120万円(傷害の上限)を受け取っています。
この場合は、自賠責保険補償額分で受取済みの金額を差し引いた金額を、加害者(加害者の保険会社)から受け取ります。