後遺障害のない人身事故の場合の賠償金は請求範囲が多岐にわたります。
具体例を交えながら、賠償金の算定方法を解説します。

障害事故(後遺症なし)の賠償金の算出例

障害事故(後遺症なし)の損害賠償は次のものがあります。

  • 積極損害(障害事故の場合は治療費と付随費用)
  • 消極損害(休業損害)
  • 慰謝料

損害賠償の基礎知識については別のページで解説しています。
(参考:賠償額算定の基礎知識)

後遺症のない障害事故の賠償額の算式は次のようになります。

損害賠償額 = (積極損害+消極損害+慰謝料) × 過失相殺分の%(パーセンテージ) + 弁護士費用

賠償額の算式自体は、死亡事故や後遺症がある場合など障害事故全般で共通です。
後遺症がない人身事故の場合、積極損害、消極損害、慰謝料の算定方法が、死亡や後遺症ありの事故と異なります。

過去に実際に起きた事故事例をモデルにして、賠償範囲と算定方法を解説します。

被害者 Mさん
年齢 23歳
性別 男性
家族構成 独身1人暮らし
扶養家族 なし
事故直前の年収 300万円
職業 アルバイト(フリーター)
傷害の状況
入院 35日
通院 延べ4ヶ月(実通院36日)
後遺障害 なし

積極損害

●傷害事故の積極損害は次のものがあります。

積極損害
治療費 原則としてかかった実費全額
付添費 職業的付添人はかかった費用実費。
近親者(家族)の付添は入院1日あたり5,500円〜7,000円、通院1日あたり3,000円〜4,000円
諸雑費 入院1日あたり1,400円〜1,600円
通院交通費 原則、公共交通機関を利用してかかった実費。傷害の程度や病院の立地によってはタクシー代が認められる場合があります。

●被害者Mさんは以下の積極損害が発生しました。

Mさんの積極損害
入院/通院費 120万円
付添看護費(職業的付添人)  37万2千円
通院付添費 3,000円 × 36日 = 10万8千円
諸雑費 1,500円 × 35日 = 5万2千5百円
通院交通費 1万5千円
事故によって破損した衣服費用 3万円
合計 177万7千5百円

消極損害

傷害による消去損害は主に休業補償です。
事故による傷害で、仕事を休んで得られなかった給料が補償されます

被害者Mさんは年収300万円のフリーターで月給25万円。日給1万円で月に25日勤務していました。
仕事を完全にしなかった期間が3ヶ月。完治までの残りの1ヶ月は、週に2回通院のために仕事を休みました。

その結果、消極損害の休業補償は以下の金額になります。

・月収25万円 × 3ヶ月 = 75万円
・日給1万円 × 通院8日分 = 8万円
・・・合計83万円

被害者が正社員など賞与がある場合で、休業によって賞与が減額された場合は、減額分も補償されます。

慰謝料の算出方法には次の3つの基準があります。

  • 自賠責保険基準
  • 任意保険基準
  • 弁護士会基準

(参考:慰謝料はどのように算定するか)

自賠責保険基準は完治までのかかった期間 × 4,200円
被害者Mさんの場合、全治4ヶ月で120日分 × 4,200円 = 50万4千円
弁護士会基準は入院期間2ヶ月、通院期間3ヶ月で、99万円〜183万円が基準額です。

被害者Mさんは任意保険基準(各保険会社共通の基準なし)で示談交渉を行い、100万円の慰謝料で加害者と合意しました。

被害者Mさんの賠償金の合計

被害者Mさんの傷害事故(後遺症なし)による賠償金の合計は、360万7千5百円です。

Mさんの賠償金合計
入院/通院費 120万円
付添看護費(職業的付添人)  37万2千円
通院付添費 3,000円 × 36日 = 10万8千円
諸雑費 1,500円 × 35日 = 5万2千5百円
通院交通費 1万5千円
事故によって破損した衣服費用 3万円
休業補償 83万円
慰謝料 100万円
合計 360万7千5百円

裁判のための弁護士費用は上記金額とは別に支払われます。
被害者Mさんは示談交渉によって賠償金が決まったので、弁護士費用はかかりませんでした。

加害者は約360万円の賠償金を払いますが、被害者Mさんは治療費や職業的付添人などの実費負担もあります。

実際に手元に残るお金は、休業補償、慰謝料、通院付添費、諸雑費のおおよそ195万円です。

自賠責保険から支払われる金額は過失相殺されない

人身事故で後遺症のない傷害を負った場合、自賠責保険で120万円まで補償されます。
自賠責保険は過失割合に関係なく全額補償されます。

120万円を超えた部分は、加害者の自動車保険(任意保険)の対人賠償から支払われる事になり、過失相殺の対象になります。
被害者Mさんの場合は過失がなかったので、全額賠償金を受け取れるのはもちろん、慰謝料を任意保険基準で算定し賠償請求しました。

自賠責保険の賠償金補償を受ける場合は、過失割合や金額によって自賠責保険基準で算出する必要が出る事もあります。