交通事故における示談は、双方の合意によって示談書の作成をもって成立します。しかし示談書を作成しただけでは、民事的な賠償責任が確定しても、強制執行など法的効力までは発生しません。

賠償金の支払い者が保険会社であれば、取り損ねるリスクが少ないので、示談書の作成のみでも問題がありませんが、加害者が直接賠償するなど支払い能力に不安がある場合は、確実に履行させるための措置が必要です。

即決和解・公正証書で確実に賠償責任を履行させる

示談交渉による話し合いで双方の合意が至った際、加害者に賠償責任を確実に履行させるには、「即決和解」と「公正証書」の2つの方法があります。

それぞれ、加害者と被害者の双方がすでに合意に至った後に、合意内容を書面にして提出します。
書面(条項)は、加害者、被害者が作成した合意内容を提出したのちに、裁判書や公証人の意見を聞いて正式な書類を作成します。

即決和解とは

即決和解の正式名称は「訴え提起前の和解」です。訴訟手続きを取らず、双方で和解した内容について、簡易裁判所に「訴え提起前の和解」についての申し立てを行います。

裁判書が即決和解のための申し立て内容を見て、問題ないと判断された場合に、「和解調書」という裁判所作成の文書が交付されます。即決和解が受理されて和解調書が発行されれば、その内容について法的効力が発生し、不履行(賠償金の未払)があれば強制執行も可能になります。

なお、即決和解が受理されない時は次の場合があります。

  • 少しでも紛争の余地が残っている時(双方の合意が完全ではないとき)
  • 既に示談書の作成が終わっている時(示談書があるとすでに解決された問題と判断される)

即決和解は加害者の所在地の管轄の簡易裁判所になるので、必ずしも被害者の便利の良い場所で手続きができるとは限りません。

公正証書とは

公正証書は「執行証書」とも呼び、公証役場で作成できます。示談書を公正証書にするのは、賠償金の未払時に強制執行できる効力をつけるためです。

どこの公証役場でも手続きができ、委任状があれば代理認が行う事ができます。加害者、被害者の実印と印鑑証明が必要で、示談金額によって作成費用が異なります。

即決和解と公正証書の違い

交通事故の損害賠償の場合、即決和解、公正証書のどちらも、強制執行の法的効力を付けるもので主たる目的は同じです。

交通事故の解決のために、即決和解と公正証書のどちらかを選ぶ場合は、費用と利便性で比較します
公正証書は、示談金額によって次のように費用が異なります

100万円以下・・・5,000円
100万円を超え200万円以下・・・7,000円
200万円を超え500万円以下・・・11,000円
500万円を超え1,000万円以下・・・17,000円
1,000万円を超え3,000万円以下・・・23,000円
3,000万円を超え5,000万円以下・・・29,000円
5,000万円を超え1億円以下・・・43,000円
1億円を超え3億円以下・・・43,000円に5,000万円増えるごとに13,000円を加算

交通事故の賠償金は数千万円以上の金額になる事も多く、この場合、公正証書の作成費用の負担も大きくなります。しかし、公正証書はどこの公証役場でも手続きができ、作成期間が2週間ほどで行えます。

それに対して即決和解は、示談金額を問わず一律2千円で手続きできます。ただし、加害者の管轄の簡易裁判所での手続きが必要で、申立から和解調書が発行されるまで、おおよそ1ヶ月ほどの時間がかかります。

法的効力がない示談書でトラブルが起こった場合

正しく、示談書を作成すれば、公正証書にしなくても加害者の賠償責任は発生します。
万が一、公正証書にしていない法的効力がない示談書で、加害者が賠償金を払わないトラブルが起こった場合は、示談書を証拠資料として再度裁判を起こし、判決を持って加害者に対して強制執行する流れになります。

あらかじめ、「示談内容に違反したら強制執行を受けても異議を述べません」などの条項をいれて、公正証書もしくは即決和解調書の発行をしておけば、裁判の判決がなくても強制執行が可能になります。

示談書の作成のみでも、裁判をすればトラブル発生後に法的効力で強制執行することも可能な事から、賠償金の支払いの信頼性が高い保険会社が相手の時は公正証書や即決和解を利用しない事がほとんどです。

任意保険に加入していないような加害者は、支払い能力やモラル面に不安要素があるので、話し合いの合意があれば公正証書の示談書か即決和解にする方法を取っておいたほうがよいでしょう。

裁判を経過せずに強制執行ができれば、手間も費用も後から裁判をするよりも負担が軽くなります。