交通事故の賠償問題は、示談や交渉による解決が好ましいですが、それぞれ双方の同意が必要です。
示談や調停でも解決できない場合は、裁判所に訴訟を起こすしか方法はありません。
訴訟による解決
訴訟とは、示談や調停で話がまとまらない場合に、裁判によって決着をつけることです。賠償金の支払い責任と賠償額を決定して、相手に支払わせるための最終手段です。
示談や調停と決定的に違うのは、裁判の判決には強制力があることです。どちらかが判決に納得していなくても、裁判の判決が出て、お互いに控訴せずに判決が確定すれば、法的効力によって加害者は判決通りの賠償金を支払わないといけません。
訴訟は弁護士が必要
訴訟は規則上は弁護士などの代理人を立てず、自分の弁護や相手の責任追求などをする事もできます。しかし、訴訟の場合は示談や調停とは違い、言い分を通すために証拠を提出して立証しなければいけません。
目撃者などの証人へのアプローチや、当事者の尋問、現場の検証、鑑定、法律面など立証手続きは多岐にわたり専門知識が必要になります。
また、訴訟は交通事故を解決する最終手段で、正しく自分の弁護や相手の責任追求をしないと、不利な条件で判決が出てしまうリスクがあります。そのため、費用を負担してでも、訴訟をする場合は弁護士を立てるのが一般的です。
実際に裁判のほとんどは加害者、被害者双方が弁護士を立てて行われています。弁護士を立てない場合でも、相手は弁護士を立てているので、素人が弁護士相手に有利な判決を導くのは困難です。
交通事故訴訟の際の弁護士費用
「訴訟費用は敗訴の当事者の負担」となりますが、訴訟費用とは印紙代や証人、鑑定人などの旅費、日当、鑑定料の事です。つまり、訴訟費用に弁護士費用は含まれていないため、被害者は自分の弁護士費用は自己負担しなければいけません。
ただし、最近の判例では弁護士費用の認容額の10%を目安に、加害者に賠償請求できる場合が多いです。加害者、被害者の立場を問わず、交通事故は訴訟に発展する可能性もあるので、自動車保険の弁護士費用特約を付帯しておくと便利です。
(参考:弁護士費用特約はあると便利)
なお、交通事故の弁護士費用は原則自由設定になっていますが、相場は着手金20万円〜50万円、報酬金50万円〜100万円前後です。
訴訟の手続き
訴訟を起こす裁判所は、原則として相手方の住所を管轄する裁判所です。訴額140万円以下の場合は簡易裁判所(訴額60万円以下であれば、少額訴訟も可能)、140万円以上の場合は地方裁判所です。
被害者が訴状を裁判所に提出(訴提起)すると、加害者は答弁書と出頭命令書が届きます。加害者が事前に答弁書を提出したのちに、裁判所に双方が出廷し、それぞれの言い分の主張や尋問、立証を行い裁判官は判決を出します。
訴訟は起こすときは弁護士とよく相談して、手続きを行いましょう。
裁判の流れ
裁判の流れは次のようになります。
- 口頭弁論
- 証拠調べ
- 裁判所の心証形成
- 判決
ここからは、「裁判の流れ」のポイントを紹介します。
訴訟中でも和解は可能
訴訟が始まったあとでも和解は可能です。交通事故の訴訟の場合は、裁判で口頭弁論が終え、双方の言い分と着地地点が明確と判断された場合は、裁判官から和解の提案をされる事もあります。
もし原告、被告が和解に合意すれば、裁判は終了になります。裁判は時間を要するものですが、和解は判決前であれば原則いつでも可能です。
賠償金問題は民事になり、裁判所も極力和解による解決にさせようと、要所ごとに和解勧告を提示してきます。
裁判は原則複数回必要
裁判で口頭弁論などをした初日中に判決が言い渡される事(即決裁判)は少なく、交通事故の賠償金をめぐる民事訴訟の場合、一般的に次回の裁判で判決が出ます。
また、最高裁以外は判決に納得いかなければ、控訴して上告する事も可能です。そのため、裁判は長引くと数年単位の年月を要する場合もあります。
仮差押さえ
裁判の長期化で、審理中に加害者が財産の隠蔽をするおそれがある時は、訴訟を起こす前に仮差押さえを申請することができます。裁判所に「仮差押命令申請書」を提出し、それが認められれば仮差押さえ命令が出ます。
交通事故の訴訟は一般的に、保険会社が賠償金を支払う場合は仮差押さえはしません。加害者が直接賠償金を支払う無保険のケースや、加害者の保険の上限設定が請求額より低い場合は、弁護士に相談のうえ、相手の財務力や資産を考慮して仮差押さえを検討します。
仮処分
仮処分とは、被害者が裁判が終わるまでの生活上最低限の補償を受けたい場合に、毎月の治療費と最低生活費の賠償補償を加害者に請求するものです。
被害者が「仮処分命令申請書」を裁判所に提出し、それが認められれば仮処分としての補償を受けられます。仮処分で受領した賠償金は、判決によって決定された賠償金から控除されます。