
私は実家の一戸建てを売った経験があります。
一戸建ては、土地と建物の価値をそれぞれ算出したり、境界確認、測量など不動産売却の中でも難しい要素が多いです。
一戸建てを売るための方法、手順、手続きをまとめました。
一戸建てを売る方法
一戸建てを売る方法は、マンションや土地など、ほかの物件種別と同様、不動産会社を利用して、仲介か買取の2種類の方法があります。
戸建ては、建物の価値の評価が購入希望者によって捉え方が異なり、流通価格に対して買取査定が安くなる傾向が強いので、物件種別の中でも仲介を利用する比率が高いです。
ただし、長年空家で手入れしていない古い物件など、更地にして土地や建売の新築住宅にした方が売りやすい物件は、買取が得意な業者に相談する価値が高いです。
一戸建てを売る流れは、不動産売却全般に共通していることですが、以下の手順になります。
- 不動産業者の査定を受けて相談をする
- 物件の条件や問題点を踏まえて、適性相場や売却に必要な条件を認識する
- 瑕疵や境界確認など、物件ならではの課題を明確にして、売り出す前に対策を決めておく
- 買取の場合はそのまま不動産業者と手続き、仲介の場合は仲介業者を決めて売り出しを行う
- 仲介業者による販売活動(内覧や進捗状況の報告を受ける)
- 商談、価格交渉、条件確認 → 成約(未成約の場合は5番の販売活動に戻る)
- 不動産売買契約、手付金の受領
- 引渡し準備(不用品の処分、本測量、買い手のローン本審査など)
- 引渡し、残代金受領
不動産売却全般に関する手順や流れは、別ページで詳しく解説しています。
このページでは一戸建てならではのポイントや注意点を中心に紹介しています。
不動産会社に相談すれば、登記情報から売却に必要なことを全部調べてくれる
一戸建てを売るには、以下の点を確認する必要があります。
- 土地の用途区分(建ぺい率、容積率)
- 建物面積、土地面積
- 所有権か借地権か?
- 建物の築年数
- 物件の所有者(共同所有や持分比率の確認)
- 抵当権の確認(住宅ローン、不動産担保ローンの利用の有無)
簡単に調べられることがあれば、購入時の資料などを出して確認することもできますが、上記の情報は全て登記簿謄本を取得すれば調べられます。土地の登記情報は第三者が取得することも可能で、不動産会社に売却相談すると、必ず登記簿情報を各不動産業者が取得してから話を進めます。
私も家を売ったときは、まずは一括査定サイトから複数社に申込をしましたが、各業者の最初の連絡では、まずは登記簿謄本を取って内容を見てから話を進めると説明がありました。売り主自身が登記簿謄本を取得することもできますが、費用(※)と手間がかかりますし、素人では必要なポイントを見落としてしまいます。
まずは、一戸建てを売るにあたって、登記上の問題点の有無を不動産会社から説明してもらいましょう。
※ 登記事項証明書(謄抄本)取得費用は、書面請求600円、オンライン請求・送付500円、オンライン請求・窓口受け取り480円
登記上問題点が発生するケースと対処法
一戸建ての売却にあたり、登記情報で確認できる代表的な問題点と、それぞれの対処法をまとめました。
土地の用途区分の変更や建築基準法の改訂の影響で再建築に制限がある
戸建住宅は、土地の用途区分で決まる建ぺい率、容積率や、建築基準法に適合する条件で建物を建築しています。一度建築した建物はそのまま使い続けることができますが、古い家や再開発された地域では、用途区分が変更になっているケースもあります。
私が家を売ったときは築55年の古い家で用途区分の変更があり、建て替えると、既存の建物よりも大幅に小さい建物しか建築できない条件があり苦労しました。
また、旗竿地など路地(私道)しか道路と設置していない家は、緊急時の消防車や救急車の搬入ができることを目的に、建築基準法42条2項にて2m以上は道路と設置していないと再建築ができません。再建築不可の物件は既存の建物を使い続けるか、隣接する家に売ったり、共同売却するなど、再建築できる条件で売るしかありません。
セットバックや再建築不可の条件がある一戸建ては、条件に応じて、近隣の土地相場よりも安くして売ることになります。再建築不可物件の場合は相場の半分以下。セットバックが必要な家は、土地面積やセットバックの内容によって、建て直したときにどれくらいの建物が建つかによって査定価格が変わります。
借地権付き物件は所有権物件を売るよりも不利
一戸建の土地権利区分は所有権と借地権があります。借地権が付いている場合は、その中でも旧借地法や新借地法、地上権など複数の権利区分に分類されます。
借地権の基本概念は、居住物件の建築を目的に土地を借りることで、土地は第三者の所有物になり、契約時に取り決めをした借地料(土地の賃料)を毎月払います。建物は建築もしくは中古購入した家主(オーナー)の所有物で、第三者に売却することも可能です。
土地権利区分の種類と特徴は以下の通りです。
所有権 |
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土地、建物ともに自己所有の物件。戸建住宅の大半は所有権で土地と建物全ての権利を売ることになります。 |
旧法借地権(賃借権) |
借地借家法が施行された1992年(平成4年)8月1日以前から存続する借地権物件に適用されています。借地権設定時、残存期間30年、その後は20年ごとに更新します。 借地権者側の権利が強く守られていて、地主側は正当な理由が無い限り更新拒絶、建物明け渡し、更地返還ができません。 |
新法借地権 |
新法借地権の中でも「普通借地権」と「定期借地権」の2種類があります。 「普通借地権」であれば旧法借地権のように法定更新が可能ですが、定期借地権の場合は期間満了後、地主に土地を返還する義務があり借地権の更新や建物買取請求権などは認められていません。 「定期借地権」は一般的に契約期間は50年です。 |
地上権(物権) |
正当な理由なく地主が契約拒絶することができず、地主の許可なしに物件を売却できます。借地料がかかる以外、権利上は所有権に近い借地者に有利な権利です。 |
借地権の場合、定期借地権であれば、残存期間が少なければ価値がほとんどなくなり、地上権であれば借地権の中では売りやすい物件です。土地は第三者の所有物になるため、物件の売却価格が所有権の物件より大幅に安くなるのが、買い手側のメリットになります。
しかし、借地権付き物件は住宅ローンの審査が不利で、高い金利が適用されることが多く、売却時の価値が下がりやすいです。近隣の中古物件相場が、平均的な所得の人では買えない価格で流通している高級住宅街や駅チカなど、立地が好条件だと、購入価格が安い借地権物件に興味を持つ方が多いです。
つまり、借地権付き物件の売却は、適用されている借地法や立地、残存期間、価格帯によって価値が異なります。借地権付きは所有権の物件より、売れにくいので、不動産業者と入念に相談して売却に向けての計画を立てましょう。
瑕疵担保責任の認識および瑕疵保険への加入検討、特約設定など
瑕疵担保責任とは、売り主が買い主に告知していない瑕疵(家の不具合)が判明した場合に、買主が売主に対して、契約の解除や損害賠償の請求ができる権利です。隠れた瑕疵に限られるので、売買契約時に瑕疵の告知を行い、買い主が現状購入に同意していれば売り主は責任を負う必要はありません。
売り主が宅建業者であれば瑕疵担保責任を付けないといけない決まりになっていますが、売り主が個人(仲介や自己発見で売る場合)は瑕疵担保責任の設定は任意です。しかし、一戸建ては数千万円単位の高額な取引になるため、瑕疵担保責任がない場合、買い手が付きにくくトラブルリスクも高くなるため、中古住宅として売る場合は建物3ヶ月、設備7日を目安に瑕疵担保責任を付けるのが一般的です。
戸建住宅の場合は、マンションなど鉄筋構造の集合住宅に比べて、シロアリや雨漏れなど建物の基礎的な部分の欠陥など、契約解除になるような重大な瑕疵が発生しているケースが多いです。
私が家を売ったときは築55年の古い家だったので、古家付き土地として瑕疵担保責任をつけない条件で売りに出しました。
家を売るときは家の瑕疵を事前に確認しておくか、瑕疵保険に加入することが求められます。瑕疵保険とは、隠れた瑕疵が発見されたときに本来売り主が負う賠償責任を保険会社が対応してくれるものです。瑕疵保険の利用には、一度建物や設備の検査を受ける必要があります。
大手不動産会社を利用すれば、専任媒介契約を条件に、不動産会社独自の瑕疵保険(仲介保証サービス)をつけてくれる場合もあります。
売り主負担で瑕疵保険に加入する場合、費用は自己負担になりますが、買い手に安心感を与えられて物件の付加価値としてアピールできるため、結果的に保険料を踏まえても瑕疵担保責任をつけないで売るより高く売れる可能性が出ます。瑕疵保険料は利用する保険会社や期間、住宅の条件によって変動しますが、相場は5万円〜15万円です。
瑕疵担保責任をどうするかなど、保険加入の必要性を売りに出す前に、不動産仲介会社とよく相談して決めておきましょう。
境界確認、本測量の実施の有無の確認
一戸建てを売る場合は、事前に、境界や本測量の実施有無の確認をしておきましょう。
境界が打ってある場合は、打ち直しの必要性、境界が無い場合は隣接する家との主張の食い違いがあるかを確認します。家を売るときに、境界確認や本測量を実施するかは、買い主との交渉次第です。
基本的には買い主から要望があれば、売り主が費用負担をして、本測量と測量業者を通じた境界交渉を引渡し前にやっておく必要があります。本測量の費用は、業者や家の大きさや状態によって異なりますが、25万円〜50万円が相場です。難しいケースだと100万円以上の費用がかかる場合もあります。
傾向としては、土地単価が安く、売る家や隣接する家も広い庭を持っているような郊外であれば、測量、境界確認を求められないケースが多いです。市街地など、建物が隣接するエリアになるほど、本測量と境界確認の重要性が高くなります。
本測量や境界に不安があれば、専任媒介の特典(仲介サービス)で仮測量を無料実施してくれる大手不動産仲介会社を利用する方法もあります。
売る家の適正価格の調べ方
家を売るときは、売り出し時の価格設定や買取査定額が適正か認識するために、家の条件に合わせた適正価格を調べる必要があります。
一戸建ての中古相場を調べるには、以下の3つの方法があります。
・収益還元法
賃貸に出した場合の想定賃料から価格を割り出す方法。主に投資用物件で活用されます。
・原価法
同じ条件の一戸建てをもう一度最初から取得する場合、土地と建築費がどれほどかかるのかを算出します。そこから、築年数による建物価値の下落分や過去にリフォームした費用などを考慮して不動産価値を割り出します。
建物の評価額の算出が難しく、査定業者によって見解が異なることが多いですが、家の条件ごとに、より信ぴょう性の高い適正価格を算出できる可能性があります。
・取引事例比較法
対象不動産と類似した条件の不動産が過去に取引された金額を参考に価格を決める方法です。中古住宅では、もっとも多く使われます。取引事例のある不動産と比較して、売却時期による地価の変動や、立地や建物の状態に応じて適切な加減点をする必要があり、不動産会社の腕や経験によって最終的な査定額は異なります。
中古住宅を売る場合は、原価法と取引例比較法に加えて、現在売りに出されている競合物件の価格も考慮して価格を算出しましょう。
戸建ての場合は土地の価値と建物の価値を独立して考えて、最後に土地・建物を合算して中古住宅としての適正価格を出すとよいでしょう。
未公開物件で売る
一戸建の家はまだ家を売るか決めていない場合や、居住中の状態で家を売ろうとする場合、近所の目も気にして広告を出したり売り物件の看板を付けるなど、近所に売りに出していることを知られるような広告活動をしたくない方も多いです。
私も実家を売った時は親が居住中で、近所付き合いもあまりよくなかったため、非公開で買い手を探していた期間がありました。未公開物件で売る場合は、不動産仲介業者が抱えている家を探している顧客や、提携している不動産業者や法人を紹介されることが多いです。
私が実家を売ったときは、立地自体は良い場所だったのでコインパーキングの運営会社が買取したいという話をもらいました。ただし、未公開で売りに出すのは、公開物件として広告を出すことに比べて圧倒的に反響が少ないです。
不動産仲介業者は、うちなら顧客をたくさん抱えているといったセールストークやポスティングチラシで営業することもありますが、大半は嘘です。未公開物件での販売活動に積極的な不動産業者は、提携している法人へのアプローチ材料と未公開から公開へ切り替えてもらうことを狙っています。
空家にしてから売った方が高い
一戸建てを売る場合は、居住中や家具などの大きな荷物が残っている状態よりも、空家にした方が高く売れやすいです。居住中よりも空家の方が購入希望者に好印象を与えやすいのは、マンションなどの集合住宅にも共通したことですが、中古の一戸建ての場合は居住中物件だと以下のデメリットが際立ちます。
- 長年住んでいる家は家具や家電、雑貨が多く、整理整頓しても生活感が出やすい
- 一戸建ては、内装だけではなく、床や基礎、柱など建物の骨格の部分の信頼性を見られるため、居住中物件だと家の印象が悪く購入希望者に不安を残してしまう
- 一戸建てで居住中だと、売買契約をしたら本当にすぐに退去してくれるのか不安を持たれる
居住中よりも空家にしてから売り出した方が高額売却がしやすいですし、売り主自身も空家にすることで家の不具合を発見できるケースもあります。ただし、一戸建ては空家にして長時間放置すると、建物全体が傷みやすいデメリットもあります。
不動産仲介会社にも協力してもらい、内覧客が来ない日が続いたら定期的に換気と掃除をするなど、最低限のメンテナンスを心がけましょう。小まめな換気ができる環境だったとしても、空家は長くても3年以内には売ることが望ましいです。
その他、一戸建て売却で難しいケース
一戸建ては、新築時の相場がマンションよりも高く、平均延床面積が広いファミリー向けの住宅が多いです。一戸建ての売却時は、共同名義や多額の住宅ローン、親の代から相続で引き継いだなど注意点が多いケースも多数あります。
一戸建ての売却でよくあるシチュエーションを、それぞれ別ページで詳しく解説しています。
・妻と共同所有していたが離婚した → 離婚を機に家を売る
・相続した家を売る → 相続した家を売る
・家を売ったお金で新しい家を買いたい → 家の買い替え、住み替え(マンションを売って家を買うなど)
・実家を子供が主導権を持って売る → 実家を売る
・ローンが残っている → ローン中の家を売る/ローンが払えなくなった家を売る
・転勤を機に家を売る → 転勤を機に家を売る
おわりに
私が実家を売ったときは、不動産業者に相談してから、セットバックや瑕疵担保責任のことを始めて知りました。また、買い手がみつかってから本測量をするように指示されるなど、家を売るために行動してみて始めてわかったこともたくさんありました。家を売る前から注意点を理解していれば、もっと効率的に売れたのではないかと思います。
中古の一戸建ては、家によって条件が異なり重視しないといけないポイントが異なります。このページで紹介している項目の中から、自分に該当しそうな部分や不安を感じるところは、事前にしっかり調べておくとよいでし
ょう。
不動産仲介会社は、聞けばなんでも答えてくれますが、売り主にとって都合が悪い話を不動産屋からは積極的にしてくれないので注意しましょう。